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2006/10/30

フィリピン・エスプリの一つの象徴

バギオ市の公設市場(Baguio City Market)は、地元の住民たちと、外国人観光客、 国内観光客とでいつもごった返している。市内でも最も活気のあるエリアの一つだ。

その一角、ちょうど肉・魚エリアの近くに、私たち家族がひいきにしているBBQの屋台がある。この屋台、 値段と味が手頃であるというだけではない。その屋号が実にフィリピン的なエスプリを感じさせるのだ。

「マクドリビー」(McDolibee)と聞くと、フィリピン、 あるいは香港などに一度でも足を運んだことのある方にはピンとくるものがあるだろう。その通り、このBBQ屋台の屋号は「マクドナルド」 (McDonald's)と「ジョリビー」(Jolibee)をつなぎ合わせたものなのである。

マクドナルドについてはことさら説明する必要はないだろう。私の耳にはいまだにあの、「あっじぃ~なことやる~、まっくぅ~どなるっど! 」というCMソングがこびりついて離れない。アメリカ発のハンバーガー・ファーストフードチェーンである。

ジョリビーは、フィリピン人が世界に誇る、フィリピン発の、同じくハンバーガー・ファーストフードチェーンである。 1975年にアイスクリームショップから始まったジョリビーは、78年にハンバーガーへと路線を変更、 85年には500万ペソ規模の収益を上げるまでに成長、93年には、 ファーストフード企業としてはフィリピン株式市場においてトップの地位を占めるまでになったと公式ウェブサイトにはある。94年にはピザのグリニッジ (Greenwich)、2000年には中華ファーストフードのチャウキン(Chowking)を買収、 総合ファーストフード企業としての成長を続けているのだという。店頭に立って客を店内へとを誘(いざな)う蜂(bee)のマスコットは、 子供たちの大きな誘惑となっている。街を歩いていると、「ジャリビ~!」と、 子供の唐突な黄色い絶叫に何事かと驚かされることも少なくない。

両者が競合するのは必然である。世界中で統一されたメニューと味を誇っていたはずのマクドナルドが、 20ペソほどのチープなフィリピンテイストのハンバーガーや、ごはんにフライドチキンのセットという、およそアメリカン・ トラディションに立つ同社としてコンセプト的に邪道とも言える商品を投入せざるを得ないのも、 同社やケンタッキーフライドチキンなどの外資に対抗してしのぎを削る純正フィリピン産、ジョリビーの存在なくしては語れない。 のびきった甘ったるいミートスパゲティーも然りである。思想交流史的に言えば「文脈化」(contextualization)、 国際経営論的に言えば「現地化」(localization)がなりふりかまわず行われているのは、フィリピンも例外ではない。

かくして、その鼻をあかすような存在がこの「マクドリビー」である。これはフィリピン・エスプリの一つの象徴であると言える。第一に、 登録商標というれっきとした法的概念をあざ笑うかのようなそのネーミングである。 不敵にもマクドナルドとジョリビーという二大ハンバーガーチェーンの名称を組み合わせて自らの名称とするところなど、 街角の至るところに音楽や映画、コンピューターソフトなどの違法コピー屋台の立ち並ぶフィリピンをいかにも象徴している。日本の 「かっぱえびせん」の精巧な類似品が"Oishi(おいしい)"として売られていること、あるいは、およそ組み合わない部品をつなぎ合わせて一台の車に仕立て上げ、 前にベンツ、後ろに三菱らしき紋章を貼りつけてわがもの顔で街を爆走するジプニーも、 フィリピンに連なる日本人にはもはや広く知られたことである。

第二に、BBQというその商品である。豚肉や鳥の砂肝に下味を施したものを串に刺し、簡素な炭焼きの網であぶって販売している。 パタパタとあおいで風を送っているのは段ボール箱の切れ端だ。豚レバーや真っ赤なウィンナーの串刺し、あるいは、英名ミルクフィッシュ (milkfish)、こちらではバンゴース(bangus)と呼ばれる魚に臭み消しのタマネギやトマトを腹に詰めた、いかにもローカルな商品もある。泥臭さがその道の通にはたまらないとされるナマズの炭焼きも、ラインナップには欠かせない。 競合するハンバーガー類ならいざ知らず、ここまでベタな地元の食材を扱っていては、いくら大手マクドナルド、ジョリビーといえども、 目くじら立てて提訴という選択肢を選ぶことはあるまい。両社の「スィゲ・ラン!」(Sige lang:いいよ、別に) という声が聞こえてきそうなところもまた、フィリピン的なエスプリと言えるだろうか。

第三に、店を預かるクーヤ(kuya:お兄さん)もアテ(ate:お姉さん)も、マノン(Manong:おじさん)もマナン(Manang:おばさん)もアディン(ading:若い子)も、みんなはにかみつつも明るい。少なくとも、そこには後ろめたさや罪悪感はかけらも見られない。 ときおり警備に歩く警察官も、このマクドリビーで、空いた小腹を満たしながら楽しそうに談笑している。法の執行官として、 時として揚げ足取りなまでに細かいことを指摘し、法律に見当たらないことまででっち上げて袖の下をせしめる警察官も、ここではスィゲ、 スィゲのようだ。

翻訳者でもある私には、著作権や商標などにまつわる議論も理解ができる。しかし、このマクドリビーのようなフィリピン・ エスプリの効いた存在は、なにかと苦難の多いフィリピンの庶民にとって、暮らしに活気と潤いを与える豊かな存在となっているように思える。 このような大らかさもまた、フィリピンの大きな魅力の一つであり、愛すべき一面であるのだ。

 

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競合する両社。バギオ市内のこのエリアのように、
真っ向から店舗をぶつけ合っているところも少なくない。
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マクドリビーの屋台。"McDelicious"と、単純ながらも
屋号にパラレルなコピーを英語で考えることができず、
"masarap"(おいしい)とタガログ語に走ってしまっているのも、
逆にローカルなエスプリがいっそう感じられて良いかも。
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2006/10/24

フィリピンの後藤真美さん

バギオの中心街で見つけた一枚の看板、「セントラル・ファーストフード・ゴトウマミ」。

後藤真美さんという日本人の経営するフィリピン食レストランなのかと思ってみる。

え、それにしても、ふつうはマミ・ゴトウと英語式に名前を先に言う人が多い中で、名字を先に言う日本式の言い方を貫いているのは、 なかなかこだわりがある人に違いない。ふつうは"Mami's Eatery"(マミのお食事処)的な名前を掲げる店が多いのに、 ずばり自分の名前をそのまま店の名前にするなど、なかなか大胆。などなど、いろいろと思いめぐらす。しかも英語の正書法にのっとって、 名字の後にはご丁寧にコンマまで打ってある。

在比のみなさん、あるいはフィリピン通を気取るみなさんには既におわかりのこと。ゴトウならぬゴトも、 マミもフィリピンではおなじみの軽食の名前。ゴトはおかゆのようなもの、マミはラーメンのようなものなのだ。

 

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お腹が空いたら"Go to Mami"(マミさんのもとへ)?
本当に24時間開けているのかが興味深いところだ。
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  goto_001
 mami_001
上がおかゆのようなゴト。豚肉のようなものと天かす的なものが入っており、
なかなかいける。カラマンシーは欠かせない。
下がラーメンのようなマミ。若干きしめんぽい平たい中華麺だ。
大盛りのネギがうれしい。醤油と魚醤を垂らしてすする。
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2006/10/09

相撲チキンカツ?

SMバギオのフードコートに、その名も「KAMIMURA」という日本食もどきの店ができてしばらく経つ。このたび、興味があって 「スモウ・チキンカツ」というメニューを食べてみた。

75ペソと、"We are cheap"を意味する店名に即した安価なメニューは、ご飯とパンシット(pancit: 日本で言うビーフン)、それに「相撲」の名にまずまず恥じないチキンカツがついてくる。スープは残念かな、 味噌汁ではなくただのコンソメスープだ。ご飯の量は20×8センチほどのスペースにしっかりとあるので、 米好きのフィリピン人には良いのだろう。フィリピン流、カップの数で言えば、2カップ以上にはなるだろうか。

「ソースがたっぷり」というのが売り物らしく、10×8センチのスペースには確かにたっぷりとソースが入っているが、これは、 ルンピア(lumpia:日本で言う春巻きのようなもの)によく添えられてあるのと同じもので、甘酸っぱいものだ。 私としてはチキンカツには使えない。中心の、しば漬けの一つでも欲しいスペースにも、別のソースが入れてある。「ソースが2種類!」 というのも売り物なのらしい。日本直輸入の貴重な調味料ならともかく、現地調達のソースなら、それでスペースを埋めるのは反則だ。 他の店なら、好きなだけかけられるようにレジの脇に置いてある。日本食レストランを装うならば、フィリピンのシルバースワン(Silver Swan)製のものであれ、醤油の一つでも置いておくのが正統だろう。

ただ、カツ自体にかなり強い塩味がつけてあり、またジューシーな鶏肉の風味と相まって、ご飯は十分に食べられる。 米からできるビーフンをおかずに米を食べるという、まるで関西の焼きそば定食のようなノリに耐えられる舌なら楽しめることだろう。

最近は、セッション・ロード沿いにも新しい日本食レストランがいくつかできて、選択のバリエーションも少しは出てきたバギオだが、 コストパフォーマンスを考えると、この75ペソはまずまずのもの。他にもいくつかメニューはあるようだが、上村さんだか、神村さんだか、 実際に日本人が経営に絡んでいるようなら、もう少し、日本色を残したメニューも望みたいところだ。

 

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スモウ・チキンカツ全景(?)。
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エスカレーターを背に、向かって右側にある。
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