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2005/03/19

美しき家族 其の一

私には父親が数人いる。実の父親、義理の父親、尊敬する教授たち、そしてフィリピンでの父親である。このフィリピンでの父親は、バギオから10時間以上かかる山村で、農業を営みつつ教会の牧師をしている。温厚だが涙もろく、熱いハートを持った人情牧師だ。

ただ、山奥で育ったために都会の事情には疎い。ある時、はるばるバギオに出てきてくれたので、チャウキンで食事をごちそうした。すると「りけるけ、これはホテルかいの?」「え、ただのレストランだけど」「あそこに"REST ROOM"と書いてあるが、あれは休憩できるんでないんかい?」「……」 彼にとって"rest"とは、"take a rest"の"rest"、横になって休むことだったのだ。トイレはフィリピン流の言い方、"CR"でしかないのだ。

先週、在籍していた大学院の修了式を迎えた。そのことを、数週間前に、このフィリピンでの父親に伝えると、実の息子の一人から電話があった。「りけるけ、親父が『りけるけがめでたく卒業するそうだから、何か四足の動物を持っていって祝わないといかん』とか言い出してるんだけど、どうしようか」「え、そんな、困るよ、ちゃんと式の後には昼食も出るし」「そう? じゃ、別に豚とかヤギとか持っていってお祝いしなくていいわけ?」「そんな、学校の敷地内で屠殺・解体とかしたら、やばいよ」「わかった、じゃ、伝えとくな」

北ルソンの山村では、結婚式や誕生日、卒業式、葬式などのいわゆる冠婚葬祭では、必ずそういうものを料理して参列者にふるまうことになっている。そこで、父は、この「リトル・アメリカ」と呼ばれる、およそ世離れした学校の卒業式であっても、親としてちゃんとそういうものを、先生方をはじめ、息子がお世話になった方々にふるまわなければならないと思ったのだ。嗚呼、文化とはかくも強きものかな。

「おとうちゃん、だめだよ、そんなことしちゃあ、バギオは都会だよ、あの学校はリトル・アメリカだよ、フィリピンじゃないよ」 実の息子や娘にさんざたしなめられた父だったが、やはり文化という内なる衝動には逆らえない。屠殺こそ田舎の家で済ませたものの、子豚1頭分の生肉を携え、はるばる田舎から出てきてくれたのだ。そして、修了式の前日に、集まれる限りの子供たち・親戚たちを集め、バギオで私のためにささやかな祝賀会を開いてくれたのだ。

田舎で丹念に育てられている豚は、フィリピンの豚肉特有の臭みが全くなく、炭で焼いて酢でしめたバーベキュー、アドボと呼ばれる肉じゃが風の煮物、そして定番のパンスィットことビーフンと、本当に、本当においしくいただいた。

既に5年以上になるフィリピン生活、長かったのか短かったのかはわからない。でも、このような、素晴らしい父親とその家族に恵まれたことは、修了式でいただいた修了証書よりも、私の人生においてはるかに貴重な宝であることだけは確かだ。フィリピンに来てよかったとつくづく思う。


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私のフィリピンでの父親、オスカー・オルガノ牧師。あなたに会えて本当によかった。
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心のこもった豚肉。大切にいただきます。
(クリックすると拡大画像(720×540ピクセル:44.2KB)がポップアップします)


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コメント

はじめまして。ミンダナオ島ブトゥアン市在住の民田と申します。「フィリピン共和国ML」では、お名前を拝見しておりましたが、挨拶は初めてになりました。

フィリピンでの真の「ふれあい」を拝見させてもらい感動しております。


それから、大学院の修了式、おめでとうございます。

また、事後報告になってしまいましたが、こちらのブログのリンクを貼らせて頂きました。

これからもよろしくお願いします。

投稿: 民田直人 | 2005/03/23 11:34

民田直人さん

励ましに満ちたコメントをくださり、ありがとうございました。私のささやかなフィリピン体験を興味深くお読みいただけたということ、これほどの喜びはありません。

御ブログもご拝見しました。ミンダナオ島での生活も、ご苦労が多いながら、素晴らしい日々のようですね。今は少し時間がないのですが、落ち着き次第、こちらからもリンクをお張りするようにいたします。

今後ともよろしくお願いいたします。

投稿: LIKELUKE | 2005/03/30 08:01

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