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2004/10/14

これはまだしたことがない

フィリピン名物の一つと言えば、人を屋根まであふれるほどに載せたジプニー。これは、さすがに主だった市内では禁じられているようで、以前、マウンテン・プロビンス州(Mountain Province)から屋根に乗って帰ってきた際も、ライステラスで有名な観光地、イフガオ州バナウェ(Banawe, Ifugao)まで来て運転手さんに下りるように言われた。そこから先は「警察に捕まる」のだそうだ。

私の住んでいるバギオでも、市内の幹線道路は、屋根に乗るのはおろか、いわゆる「コボイ」(カウボーイ(cowboy)のなまった言い方)と呼ばれる、後ろのステップの部分に立って鉄棒の懸垂のようにぶら下がっていく乗り方もだめなようだ。山から下りてくる道では「コボイ」な男たちも、幹線道路に入ると途端に身を縮めて屋根の下にもぐり込む。客には客なりのマナーがあるらしい。

ところが、田舎は「何でもあり」である。振り飛ばされて300mの絶壁を転がり落ちようが、予告もなしに前から来る木の幹にブレンバスターを食らおうが、鋭い草の葉っぱで顔と腕が切り傷だらけになろうが、全ては「自己責任」である。そればかりではない。なぜこんな山の中で大しけに遭わなければならないのか、と思ってしまうような荒れた道でさえ彼らは寝ている。ロデオのごとく命がけでロープや鉄パイプにしがみついているのは、30代、人生も半ばを越えてようやく北ルソン・コルディリエラ山地デビューを果たした日本人キリスト教宣教師くらいのものである。車の中に乗っていても、この男だけが一人、頭をあちらこちらにぶつけている。周りのフィリピン人はみな、よだれを垂らして寝ている。ネイティブにはどこまで行ってもかなわないというのは言葉だけではないようだ。

ヌエバ・ビスカヤ州(Nueva Vizcaya)の山地、カスィブ郡(Kasibu)でも、同じような光景が繰り広げられている。ここの幹線道路は、舗装されているわけもなく、非常にほこりっぽいことで悪名高い。ジプニーが止まるたびに後ろの入り口からは細かい粒子の砂ぼこりが排気ガスと一緒に激しく吹き込む。女子高生はその度にバッグから「ポンズ」などのファンデーションを取り出し、化粧直しにいそしむ。ここまでくると、化粧品を塗っているのか、ほこりを顔中に伸ばしているのか区別がつかない。本人が納得していればいいという、きわめて現象論的な原理に支配された世界がそこにはある。

このカスィブで初めて見たのがジプニーのボンネットに座るという乗り方である。もちろん、運転席の側ではない。反対側である。それでも運転手にとってはかなり死角が増すのだが、横座りをしてできるだけ死角を減らそうなどという努力は、乗っている客の側には見られない。ジプニーのフロントガラスの半分をべったり覆うようにしてもたれかかるようにして座るばかりではない。肘を一杯に張って頭の後ろで手を組んでいる不届き者も、当たり前のように見かけるのだ。

屋根に乗り飽きた感のある今、私も密かにこの傍若無人な乗り方にあこがれている。ただ、寝台特急トワイライトエクスプレス上野発札幌行きのスイートルームみたく、定員がお一人様に限られているのが何よりの難点だ。気弱な外国人が厚かましくボンネットに座れる日はいつ訪れるのだろうか。


photos/jeepney_001
これでも険しい山道をわけなく進んでいくのだから、山の運転手たちはテクがすごい。
あるいは、物の前後というか、万一の時というものをあまり考えていない。
(クリックすると拡大画像(720×540ピクセル:66.7KB)がポップアップします)

photos/jeepney_002
ジプニーの屋根からの写真。これくらいの川は川とは呼ばない。
時には30度くらいまで傾きつつも、非4WDの車でいとも簡単に渡ってしまうのだ。
(クリックすると拡大画像(420×560ピクセル:49.7KB)がポップアップします)


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