« 動詞で学ぼう (4):"kumuyog" ― ag-動詞、-um-動詞 | トップページ | 動詞で学ぼう (6):"makikuyog" "agpakuyog" "pakuyogen" "ipakuyog" »

2010年5月28日 (金)

動詞で学ぼう (5):"mangkuyog" ― 非他動詞化

語幹"kuyog"から派生する動詞として次のものは、接頭辞"mang-"によって作られる"mangkuyog"です。

サイドバーの入門レベルの教科書、Espiritu, Let's Speak Ilokanoの巻末の基本単語リストに"kumuyogen"と並んで掲載されている(そして、"agkuyog"、"kumuyog"、"ikumuyog"は掲載されていない)ところを見ると、Espirituはむしろ、この"mangkuyog"を、"kuyog"の動詞としては、最も基本的なものと捉えているということがわかります。

接頭辞"mang-"は、-en動詞(および、この企画ではまだ出てきていない-an動詞)を非他動詞化する働きを持つ接辞です。簡単に言えば、"mangkuyog"は、他動詞"kuyogen"から逆に生まれた自動詞であるというわけです。「kuyog(語幹) > kuyogen(他動詞) > mangkuyog(非他動詞化:自動詞)」というわけで、「kuyog(語幹) > agkuyog, kumuyog(自動詞)」のように語幹から直接生まれた自動詞とは異なるというわけです。

「自動詞」すなわち、動作主焦点動詞ということで、構文のパターンは"agkuyog"、"kumuyog"と同じもの(動作主:名詞-中心格:代名詞表現-絶対格、(その他(オプション):名詞・代名詞表現-斜格))になり、例文は次のとおりです。

Mangkuyog ni Maria.(マリアは一緒に行く)

Mangkuyog ti aso.(犬は一緒に行く)

Mangkuyog da Maria kenni Juan.(マリアたちはフアンと一緒に行く)

Mangkuyogak.(私は一緒に行く)

Mangkuyogka kada Maria.(君はマリアたちと一緒に行く)

Mangkuyogda kadakayo.(彼ら・彼女ら・それらは君たち・あなたたち・あなたと一緒に行く)

 

イロカノ語の文法では動詞の「焦点」という概念がとても重要です。この企画では一貫して統語論的な「主語」という用語を避け、意味論的な「動作主」「対象」「主題」などの概念を用いてきていますが、それというのも、「能格言語」的である、イロカノ語を含むフィリピン諸語の文法では、この「焦点」の当たった要素を「主語」と捉えようとする伝統があるからです。

これは、"agkuyog"、"kumuyog"などの「動作主焦点動詞」ならば「動作主」が主語、"kuyogen"などの「対象焦点動詞」ならば「対象」が主語、"ikuyog"などの「主題焦点動詞」ならば「主題」が主語、などというわけです。これは、日本語や英語などの「対格言語」での主語(大半は「動作主」がそれに当たる)とは、外見が大きく異なることになります。

イロカノ語文法で動詞の焦点が重要だというのは、例えば、英語の関係代名詞節に相当するものを作ろうとすると、先行詞に相当するものは関係節内で焦点の当たっている名詞でなければならないといった規則があります。例えば、「これは私が連れて行く犬だ」という文の場合、

Daytoy ket ti aso.(これはだ)

Kuyogek ti aso.(私は犬を連れて行く:焦点="ti aso"(犬))

という2つの文から、"ti aso"(犬)を先行詞(共通部分:修飾される要素)として、

Daytoy ket ti aso (a kuyogek).(これは私が連れて行く犬だ)

という文を作ることができます("a"は英語の関係代名詞に相当)。ところが、「こちらは犬を連れて行く人だ」という文の場合、

Daytoy ket ti tao.(こちらはだ)

Kuyogen ti tao ti aso.(その人は犬を連れて行く:焦点="ti aso"(犬))

あるいは、

Kuyogenna ti aso.(彼・彼女・それは犬を連れて行く:焦点="ti aso"(犬))

という2つの文から、

×Daytoy ket ti tao (a kuyogen ti aso).(×こちらは犬を連れて行く人だ)

という文を作ることはできません。なぜなら対象焦点動詞"kuyogen"の焦点は、対象である"ti aso"(犬)であるがために、"ti tao"(人)を修飾することはできないからです。

これを解決するために、非他動詞化という操作が行われます。すなわち、対象焦点動詞を動作主焦点動詞に変えてやることによって、焦点を対象(この場合は"ti aso"(犬))から動作主(この場合は"ti tao"(人)あるいは"-na"(彼・彼女・それ))に移してやるわけです。結果、次のようになり、

Daytoy ket ti tao.(こちらはだ)

Mangkuyog ti tao iti aso .(その人は犬を連れて行く:焦点="ti tao"(人):非他動詞化により、"kuyogen"で焦点だった"ti aso"(犬)は、斜格に降格している)

あるいは、

Mangkuyog isu(na) iti aso.(彼・彼女・それは犬を連れて行く:焦点="isu(na)"(彼・彼女・それ):同上)

という2つの文から、

Daytoy ket ti tao (a mangkuyog iti aso).(こちらは犬を連れて行く人だ)

あるいは、よりイロカノ語的に自然な文として、

Isu(na) ket ti mangkuyog iti aso.(彼・彼女・それは犬を連れて行く人だ)

という文が得られることになるわけです。

それでは、そもそもなぜ、このような複雑な操作が必要なのでしょうか。確かに、自動詞という点だけ考えるならば、

Daytoy ket ti tao (a mangkuyog iti aso).(こちらは犬を連れて行く人だ)

という文は、

Daytoy ket ti tao (nga agkuyog iti aso).

Daytoy ket ti tao (a kumuyog iti aso).

と言い換えてもさほど変わりはないということになります。しかし、既に"agkuyog"と"kumuyog"の項でも見たように、これらは、確かに自動詞ながらも、接辞が違うことで微妙に、時には大いに意味の違う動詞になっていることがあるのです。すなわち、対象焦点動詞"kuyogen"を動作主焦点動詞"agkuyog"、"kumuyog"に言い換えることは、単に他動詞から自動詞へ構文的な枠組みを変えるというだけでなく、意味的に異なるものとなってしまう可能性がある(そして、確かにこの例の場合はそうなる)のです。

それに対して、非他動詞化動詞"mangkuyog"の場合は、意味的には"kuyogen"に近いもののまま、すなわち「対象に(良くも悪くも)比較的強めに働きかけて、連れて行く」、Rubino(2000:IDG)によれば「同伴する、エスコートする」などの意味を一定程度、保ったまま、構文だけ自動詞ないし動作主焦点となるという、実に便利なことになるわけです。

既に学んできたように、"agkuyog"ならば「自ら進んで、自らのコントロールのもと、一定の期間にわたるものと見られる形で、一緒に行く」、"kumuyog"ならば「自発的に、あるいは特に特別なニュアンス無しに、行為全体として見られる形で、一緒に行く」的な意味にもなり得るわけですから、これは、純粋に"kuyogen"の意味をそのまま自動詞、動作主焦点の構文で表現したいという場合には、ありがた迷惑となるわけです。

同じ自動詞ないし動作主焦点動詞として"agkuyog"、"kumuyog"がありながらも、それを押しのけるようにして"mangkuyog"が頻用されるようになってくる背景にはこのような理由があるわけです。これは、初学者の私たちにとっては学習を厄介なものにする、まさに迷惑なものであるわけですが、しかし、「焦点」という大切な概念を理解していくにつれ、あるいは、もっと多くの場面や例文を通して"agkuyog/kumuyog/mangkuyog"の3つの自動詞・動作主焦点動詞の違いを知っていくにつれ、イロカノ語というものを、本当に繊細で豊かな言語にしているものであるのだということがありがたく思われていくことでしょう。

 

|

« 動詞で学ぼう (4):"kumuyog" ― ag-動詞、-um-動詞 | トップページ | 動詞で学ぼう (6):"makikuyog" "agpakuyog" "pakuyogen" "ipakuyog" »

01a イロカノ語講座:動詞で学ぼう」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/24691/48475902

この記事へのトラックバック一覧です: 動詞で学ぼう (5):"mangkuyog" ― 非他動詞化:

« 動詞で学ぼう (4):"kumuyog" ― ag-動詞、-um-動詞 | トップページ | 動詞で学ぼう (6):"makikuyog" "agpakuyog" "pakuyogen" "ipakuyog" »